自由・経済・科学・合理主義

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そろそろ左派は経済を語ろう、を読む

   本書は経済学者である松尾匡さんと英国在住のライターであるブレイディ みかこさん、東京大学情報学環教授である北田 暁大さんによる対談形式で書かれた本である。

 北田さんが社会学の切り口から語り、みかこさんがEUの政治状況の話を、松尾さんが経済学の切り口から語る、という構図になっている。

 全体的な内容としては、そろそろ左派は経済を語ろう、というタイトルどおり、”日本の左派は現状経済政策に興味がないようだが、EUでは普通、左派が経済政策を語るものであって金融緩和も拡張財政もEUでは普通の左派政策だよ、経済を無視し続けるなら絶対に安倍政権には勝てないよ”(超訳)というような左派に経済政策を考えるように促す内容になっている。

 日本の左派の現状だが、本書の内容をまとめると次のようにある。

分配には興味はあるが、日本はもう成長しないと決めつけているか、日本に成長は必要ないと思っている、とマクロ経済に全く興味を示さない状況にある。(これは私の観察とも一致する)

 

(以下、そのままの引用ではなく、私なりに要約した文章です)

+++++欧州情報

++欧州ではリーマン・ショック後に税収を減るからと緊縮財政をした結果、雇用の悪化や格差の拡大を招き、現在のような政治的混乱をもたらしたと考えられている。ポルトガルは例外でリーマン・ショック後に反緊縮政策を行ったおかげで経済は回復し財政赤字も減らしている。

++反緊縮運動が欧州の左派のメインストリームになっている

++スチューアート・ホランドという経済学者がドイツは2回戦争で欧州を破滅させたが、今度は緊縮で破滅させようとしている、と警告している(p110)

 

 +++++経済についての記述

++経済成長には供給側・需要側の2つの成長がある。

供給側の成長は潜在GDPの拡大であり、人口増や技術革新なども絡むので長期の成長とも呼ぶ。供給側の成長について論じてる場合は、完全雇用を前提としている。

 

++ケインズ以前はセイの法則に従い、常に供給>=需要の状態にあると考えられていた。だが実際には需要以上の供給は作られない傾向にあるので、(企業は売れない量の物は作らない、売れる量だけ作ろうとする)ので、これをケインズ有効需要の原理として説明した。

(需要が足りないなら需要を作ればいいので、中央銀行量的緩和などで金利を下げたり、財政支出で直接需要を産めばよいことになる)

 

++ケインズの雇用、利子、及び貨幣の一般理論は1930年代の大不況の中でその大不況のために書かれた。だが、一般理論が流行ったのは戦後の高度経済成長の時代であった。

 

++不況下での成長戦略=>労働生産性の向上は自体を悪化させる。

完全雇用でないのに労働生産性を上げれば必要な生産量は代わりないのにより少ない人数で出来てしまうので雇用環境を悪化させる

 

++緊縮財政は景気を悪化させることで税収の低下をもたらし財政赤字を拡大させる。(p92)

 

++企業が生産拠点を決める時に気にするのは為替レートや労働力確保の容易性、物流コストなどであり、税制の重要度は低い。(p93)

 

++クルーグマンは「そして日本経済が世界の希望になる」にて、法人減税について経済成長とは関係ないと批判している。(p93)

 

++量的緩和により通貨発行益を”錬金術”という奴は金保有量で通貨発行量が制限されていた金本位制の世界観で生きている。(ケインズ政策の条件として金本位制をやめる、というのがある p97)

 

++国債は借り換え続けてもいいが、永久債にして中央銀行に買い取らせてもよい

=>中央銀行が持つ国債を償還するということは中郷銀行にお金が移動することであり、世の中からお金が消えるのと同じである。(p101)

 

++新自由主義完全雇用であることが前提であるので、基本的に緊縮政策である。また金持ちはインフレなら現金資産が目減りするがデフレなら逆に増加する。また金融緊縮で金利が上がる方が金持ちにとってはメリットである。(p165)

 

++子育てや福祉にずっと緩和マネーを使うことは出来ないので、デフレ化であっても、法人税所得税累進課税を強化してこれを財源とする。このとき景気回復の足を引っ張らないように設備投資の補助金などでこれを埋め合わせる。景気が回復したら補助金をへらす。消費税は逆進性が高く不平等な税制であり論外である。

 インフレ投資など一時的な支出には緩和マネーを使い、福祉など恒久的な支出には大企業への増税所得税累進課税で賄う(p180~p183)

 

++悪性インフレになるとしたら、完全雇用達成後も緩和を続けて需要が拡大し続けた場合。デフレを脱却して完全雇用になれば金融引き締めをすればいい(量的緩和を停止する、国債を売る、法人税所得税を上げる)(p180)

 

++実質賃金の低下は民主党政権化で名目賃金の下落を原因として起きていた。2014年以降の実質賃金の下落は消費税増税によるもの。加えて団塊世代の大量退職と給与の低下を伴う再雇用なども下落に関わっている(p195)

 

++市民配当という、中央銀行が刷ったお金を直接市民に渡す方法もある。これは金融緩和と財政出勤、両方の側面を持つ。

(これインフレになったとき、国債の売りオペは出来ないが、日本だと国の借金がー、の声が強すぎるので、これなら国債発行必要ないし、これを訴えていくほうが効果的な気がする)

(p199)

 

++より低賃金で働く移民労働者は賃金を下げることになるので既存の労働者と対立する(p223)

 

++労働組合は正社員の味方であるので、非正規についてはその方が賃上げの原資が出来ていい、と冷淡であった。(p228)

 

++ケインズの一般理論は最初は、不況の原因は名目賃金の下方硬直性にある、と理解されていたが、90年台になって不況の原因は流動性選好にある、と言ってることが発見された。

=>人は流動性そのものを求める(お金を使わずに貯め込むこと)。デフレ下ではお金の価値が高まっていくため、人々はお金を溜め込もうとする。これが需要の低下をもたらしさらなるデフレと不況を招く。(p264~)

 

++流動性の罠に陥れば、中央銀行が貨幣を発行し続けてもある閾値になるまでは貨幣を溜め込み続けてしまう(高橋さんの話だと、金融緩和の効果が出るには半年~2年半ほどかかる)(p271)

 

++景気が回復して投資が増えてもその原資はまずは内部留保が使われる。その後銀行貸出が増えてマネーサプライが増える。それまでは緩和マネーなどで財政出勤を行い雇用を創出するなどして消費性行を高める必要がある(p271)

 

++投資をするならインフレになる前にしなければならない。インフレになれば緩和マネーを使用できなくなる。(p285)

 

++日本は中央銀行が一つしかなく地方と都市のインフレ圧力が違うために、都市では完全雇用を達成してインフレにできても、地方はデフレのままの可能性がある。(p287)

 

+++++その他

++経済民主主義指数では日本はOECDの中で下から4番目(p8)

これは経済的な平等度を表すものであり、つまり日本は経済的にかなり不平等な国にある。

 

++日本人はアメリカ人よりデフォルトで他人を信頼する度合いが低い(p42)

 

++能力主義は上位層の人間はその地位にふさわしい能力を持つ人間であり、下位層の人間は才能に乏しい人である、と階級を正当化した。そこにいるのがふさわしい、と思う人々に人は同情せず、これは英国でチャブヘイトと呼ばれる現象を起こした。(p151)

 

 ++現在の対立は右 対 左ではなく、上 対 下。イデオロギー闘争ではなく階級闘争である。(p220)

 

++松尾さんの右と左の定義

右は世の中を縦に割って内と外を作り、内側につく人。

しかし、左翼というのはもともと経済的利害関係に基づいており、世の中を上と下で割って下の方に付く人たち。

右はアイデンティティ的な物の見方であり、左は階級的な物の見方である(p226)

 

++英国ではチャブ差別がまかり通っており、BBCはチャブを笑い者にする番組を放送していたp223

 

++金持ちの住む地域と貧困層の人の住む地域が分離しており、これをソーシャルアパルトヘイトと呼ばれている。

 

++この本のアマゾンの星2以下のレビューを見る

本書では需要サイドのケインズ系の経済学と供給サイドの新古典派経済学の違いまで説明して今必要なのは需要サイドのケインズ経済学とあるのに、”彼がよってたつのはマルクス経済学でしょ”、とのコメントや、現在日本が緊縮財政状態であると説明されてるのに、金をジャブジャブばらまいて、という事実誤認のまま何かで録音したテープレコーダを再生してるコメント、日本ば膨大な財政赤字を背負ってるという財務省の詐欺に騙されてる人、などが主でした